Gris vert
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おやすみ、いい夢を。
- 2012/09/14 (Fri)
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ある日、隣のベッドで寝ている相方のうなされている声で起きた。
悪い夢でも見ているのだろうかと顔を覗き込むと寝ながら涙を流している。
お互いの素性や過去について話したことはなかったから、彼が何故こんな生活をしているのか過去に何かあったのかなどは知らない。
身体を震わせ涙するローランサンに故郷に残してきた妹を思い出し、つい手が出た。
起こさないよう、そっと頭を撫でてやると少し表情が和らいだように思えた。
「良い夢みろよ、ローランサン。」
朝起きると相方は仏頂面で、よう。と何時もと変わらぬ素っ気ない挨拶をした。
まだ重たい瞼を擦りながら隣に立ちぐしゃぐしゃっと頭を撫でてやり顔を洗いに洗面所に向かう。
鏡越しに訝しげに眉を潜めている顔が見えて少し可笑しかった。
それからローランサンがうなされていると目が覚めるようになり、頭を撫でてやりながら良い夢を。と声をかけるのが密かな日課になりつつあった。
昨夜一仕事終え、事が明るみになる前に朝一番に街を出た。
次の街に着いたのは日も沈みきった頃だったので、今日はこのまま休み明日獲物を探しにぶらつこうということになった。
さっさと食事を済ませ先にベッドへ潜り込むローランサンに「おやすみ、良い夢を。」とつい癖になりつつある言葉が口をついて出た。
「なに?」
とローランサンが驚いたように此方を見ているので、少し居心地が悪い。
「あー…。何か時々眉間に皺寄せて寝てるから、夢見でも悪いのかと。」
泣いていたことはちょっと言えない。
「……そんなん初めて言われた。何かくすぐったいな。」
ははっと笑いながらベッドに潜るローランサンは普段よりも幼く見えた。
「イヴェール。おやすみ、いい夢見ろよ。」
「…ああ、おやすみ。」
その言葉が気に入ったのか、此方の返事を聞いて満足そうに目を閉じた。
灯りを消すときに見えたローランサンの寝顔は穏やかだった。
翌日別行動で街を散策し夕方合流するとローランサンの様子がおかしい。
どうかしたのか訊ねても何でもないと首を振るだけだった。
特に目星い獲物は見当たらず、万が一前の街での噂が届く事を考え明日は新しい街に移動しようと決めた。
さあ休もうと寝支度をしていると、ローランサンがちょっと飲みに行ってくると言い出した。
別段珍しいことではないのだが夕方から顔色が優れない相方に、今日は止めといた方がよくないかと言うと暫く考え込んだ後、そうだな。と寝る支度を始めた。
しかし、数時間後隣からする衣擦れの音にうっすら目を開けた。
「ローランサン……?」
「悪い、起こしたか。」
「どうしたんだ?」
「ちょっと寝付けないから、やっぱり飲んでくるわ。」
暗くて顔はよく見えないが自分が寝ているベッドの端にローランサンが腰掛ける。
延びてきた手に髪をすかれ、その心地よさが眠気を誘う。
「…今からなんて、明日にひびく……。」
「朝になったら叩き起こしてくれ。」
「まったく……。」
「はは。悪いなあ、イヴェール…。」
「あんまり…遅く、なるなよ……。」
「有難うな…。」
ローランサンが頭を撫でる感触を暫く感じていたけれど徐々に意識が沈んでいく端っこで、パタンと静かに扉が閉まる音を聞いた気がした。
何の前触れもなくバチっと突然目が覚めた。
瞬きを繰り返し漸く頭が覚醒してきたところで身体を起こすと隣のベッドは空だった。
先に起きたかなと身仕度を整え寝室を出ると隣の部屋にも相方の姿はなかった。
「…仕方ねーなあ……。」
大方飲みすぎて店で潰れたのだろう。
店内で寝かせてもらえていれば良いが、もしかすると路上に放り出されて下手すれば身ぐるみ剥がされているかもしれない。
店の場所くらい聞いておけば良かったと溜め息つきながら宿を出た。
酒場を探してぶらついているとまだ早朝の路地の一角に人集りが出来ている。
何だろうと眺めていると人集りの間から見えた酒場の店内が血で染まっていた。
一抹の不安が過る。
近くの見物人に何があったのかを聞いてみた。
「ああ…夜中に人が刺されて死んだんだってよ。」
「…………刺された人は、」
「刺されたのは此処等じゃちょっと有名なろくでなしでね……。大きな声じゃ言えないが、扱いに困ってたから正直みんなほっとしてるよ。」
「……。」
「刺して逃げた黒髪の青年を役場が捜してるようだけど、あっという間の事でろくに顔見た奴が居ないんだと。」
役人が来て見物人を散らしたので、近場の店でローランサンらしき人物が来ていないか訊ねて歩いたが、何処も心当たりは無いそうだ。
ただローランサンの特徴を話すと、詳しい特徴は誰も覚えていないのだが、あの男を刺して逃げた青年も黒髪だった。と返答が幾つかあった。
何処か路地裏で寝てしまったんだとしても目が覚めれば帰ってくるだろうと、一先ず宿に戻ることにした。
宿に戻りローランサンの荷物を確認してみると、荷物は殆どそのままだった。
……財布もだ。
ただ、何時も腰から下げている剣とナイフは無かった。
ローランサンが誰かを捜しているらしい事を彼の行動から予想はしていた。
確かめたことはないから実際人を捜していたのか、どういった人物なのかは知らない。
ローランサンの行方が解らないまま、一週間程その街に留まった。
荷物が残っているので、何か厄介事に巻き込まれ直ぐには戻ってこれないのかも、と暫く待ってみることにしたのだが。
頭の何処かで例の青年はローランサンなのだろうと、酒場の前で話を聞いたときから納得している自分もいた。
身を隠すために逃げているのだとしても、あのローランサンが此れだけの日数連絡を寄越さないと言うことは捕まってしまったのか、或いは戻る気がないのだろう。
元々、成り行きで手を組んでから何となくそのまま一緒にいただけで、その内適当に別れるんだろうと思っていた。
それだけの付き合いだったのだ。
もし、ローランサンが戻った時のために宿の主人に言付けを頼み、街を出ることにした。
いつか、また会うことがあれば、思いっきり殴ってやろう。と心に決めて。
**************
あ、うちのロラサン黒髪なんだそうです。
盗賊は外見を変えようと思っていたので、初期は盗賊イヴェールも金髪碧眼でした。
でも、銀髪でもオッドアイでも良いじゃない…といつの間にかイヴェールは元に戻った。
盗賊ロラサン=風車ロラサン設定
ろまんが読んでからずっと書こうと思っていたお話。
もう4年くらい置いておいたのに結局上手くまとまらないとか。
ろまんがの「いい夢を」と、その頃寝る前によく良い夢見ろよと言ってくれる友人がいて、それから出てきたお話でした。
当時は自分設定サンイヴェの延長で考えていて、そんなお別れ嫌だな。と思いこれだけで単独のお話にしました。
自分設定のサンイヴェは幸せにするよ!(……?)
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